# 失注インタビューで本音を聞く:「価格が理由」の先にある稟議の事情 「価格で負けた」を仮説として扱い、商談に関わっていない人が稟議の進み方を順序で聞く失注インタビューの設計と、録音やメモの個人情報について法務に確認すべき点を整理します。 URL: https://www.hiresteve.ai/ja/blog/win-loss-interviews-japan 最終更新: 2026-10-12 CRMの失注理由に「価格」と書かれていても、それは最初の仮説です。稟議で決める会社では、窓口担当者が案件を社内に持ち上げ、営業に見えない場所で結論が出ます。商談に関わっていない人が「社内で検討がどう進んだか」を順番に聞き、価格は一度だけ、何と比べて誰が数字を求めたかという形で確かめます。発言は日本語の原文で記録し、録音と氏名の扱いは、個人情報保護法の観点から先に自社の法務に確認します。 ## 「価格で負けた」を入口として扱う 失注直後に営業が聞く理由は、短く、角が立たないものになりがちです。TORiXの高橋浩一氏はビジネス+ITのインタビュー(SBクリエイティブ、2019年2月1日、セールスフォース・ジャパン提供)で、「他社が安かったから」「提案内容が要件に合わなかったから」という一見もっともらしい理由は多くの場合タテマエ(建前)だと述べています。2019年の一本のインタビューで、割合を示すデータではありません。この記事の前提はそこにあります。 営業側にも同じ力が働きます。Mazricaの失注分析の解説(2021年3月26日公開、2026年6月15日更新)は、営業担当者が「失注理由を正直に書くと評価が下がるかもしれない」と恐れると、本当の理由を隠して外部要因のせいにするバイアスが働くと書いています。買い手が短く答え、営業が短く記録すれば、CRMには「価格」の一語が残ります。 Salesforce Japanの「失注する9個の要因」(2025年6月30日)は、価格がネックとなり意思決定者の稟議が通らないことがあると触れ、見込み顧客に直接ヒアリングするよう勧めています。創業手帳の記事(2025年5月30日公開)には、価格競争に敗れたと思っていた案件で、聞いてみると責任者が独自に決めていたと分かった例があります。いずれも一例です。「価格」が建前である頻度を示す調査は、この記事を書く時点で見つかっていません。 ## 稟議のある買い方と、営業から見えない部分 稟議とは、ある判断を求める文書を起案し、関係者が順に確認して決める仕組みです。Japan Intercultural ConsultingのRochelle Kopp氏の解説(英語、2010年4月27日公開、2020年7月18日更新)は、稟議書には判断の根拠と必要なデータが添えられ、同意しない人はそれを机の引き出しに入れたまま取り出さないことがあると書いています。反対が声に出ない形で起きる点が、この記事では重要です。 **ここで述べる稟議と建前・本音は一般化です** 稟議の進め方や、本音を言わない傾向は、会社と人によって大きく違います。この節の記述はコンサルタントと調査会社の説明、および2つの小規模な調査に基づく一般化であり、目の前の買い手に当てはまるかは、聞いて確かめるしかありません。 数字は2つあります。HubSpot Japanの「日本のBtoB購買に関する意識・実態調査2026」(2026年7月16日発表、マクロミル実施、n=1,573、従業員50名以上、自己申告)では、購買に関与した社内関係者が本人を含めて5人以上だったケースが46.9%、比較した提供会社が2社以上だったケースが80.3%でした。ASCII STARTUPが報じた「BtoB購買意思決定調査」(2026年5月14日、エヌケーエナジーシステム実施、n=100)では、社内で起きたことを営業担当者に「すべて」伝えた買い手は30.8%で、伝えなかった主な理由は「社内の合意が得られていないうちに外部に共有することへの抵抗」(61.9%)でした。後者は小規模な事業者調査です。日本全体の数字ではなく、営業に見えない部分がどこにあるかの手がかりとして読んでください。 営業が持っている失注理由は、窓口担当者が外に出してよいと判断した部分です。稟議の中で何が比較され、誰が止めたかは、窓口担当者自身も全部は知らないことがあります。インタビューの目的は、その見えない部分の順序を本人の言葉で再構成することです。 ## 誰が聞くか 商談を担当した営業は聞き手に向きません。買い手は目の前の担当者を傷つけない答えを選びやすく、営業側には評価を守る動機があります(Mazrica、上記)。社内なら、事業企画やマーケティング、別部門の担当者が聞きます。冒頭で、自分は商談に関わっていないこと、この場で売り込みはしないこと、答えが何に使われるかを述べます。 機微な案件では第三者に任せる選択もあります。米国の受注・失注調査会社Clozdは、買い手は売り込んだベンダーに率直な批判をめったにせず、中立の第三者が「礼儀による偏り」を取り除くと書いています(英語、2026年4月21日更新)。第三者調査を売る会社の見解です。日本語で検索した範囲では、日本の買い手向けに失注インタビューを代行する事業者や手引きは見つかりませんでした。「日本では第三者に任せるのが一般的」とは言えません。 ## 順序で聞く質問設計 質問は「どう進んだか」の形にします。「なぜ当社を選ばなかったのですか」は買い手に判定を求め、建前の出番を作ります。「検討はどなたが起案して、どの順で進みましたか」は出来事を求め、答えに人と文書が現れます。中立な言い回しの点検、拒否や記憶違いへの対処、記録用紙の作り方は[誘導しない受注・失注インタビューガイド](/ja/blog/win-loss-interview-guide)にまとめてあります。ここでは日本の買い手向けに足す部分だけを扱います。 高橋氏のインタビュー(上記)は、本音に近づく聞き方を接戦状況、決定の場面、裏にある背景の3つの見出しで示しています。記事本文は会員限定のため、見出しの下の質問文は読めていません。以下の質問例はこの記事のために書いたもので、高橋氏の文言ではありません。 **接戦状況:どこまで競っていたかを聞く** 「最終的に何社が残り、当社はどの段階まで検討対象でしたか」。確認:答えに社数と段階が含まれているか。「良い提案でした」だけなら、残った会社の数をもう一度聞きます。 **決定の場面:どこで、誰の前で決まったかを聞く** 「決定はどの会議や文書で確定しましたか。稟議書には何が添えられましたか」。確認:会議名、文書名、起案者のいずれかが出ているか。出なければ、窓口担当者が知らない部分として記録します。 **裏にある背景:決定の前に何があったかを聞く** 「決定の前後で、社内の状況や優先順位に変化はありましたか」。確認:時系列が結果の前に置かれているか。結果から逆算した説明は、そう明記して残します。 **価格は一度だけ、比較と人の形で聞く** 「費用対効果の資料は誰が求め、どの数字と比べましたか」。確認:答えに比較対象、人、文書のどれかがあるか。「高かった」という形容詞だけなら、それ以上追わず、そう記録します。 文字起こしをClaudeに渡すときは、日本語の原文のまま、話者ラベルを付けて渡します。Anthropicの多言語対応の説明は、入力と出力の言語を明示すると信頼性が上がり、音訳ではなく元の文字で送るよう勧めています(2026年10月7日確認)。繰り返す調査なら、質問ガイド、理由リスト、記録用紙を[Claudeのプロジェクト](/ja/blog/claude-project-setup)にまとめます。 プロンプト:文字起こしに理由タグを付ける ```prompt 以下は失注インタビューの文字起こしです(日本語、話者ラベル付き)。 添付の失注理由リストの項目だけを使って、該当する箇所にタグを付けてください。 各タグには、買い手の発言をそのままの言葉で引用してください。 発言から判断できない場合は「不明」と書き、推測しないでください。 買い手が「本当に言いたかったこと」の解釈は書かないでください。 ``` Claudeが読めるのは渡した文字だけです。間や言いよどみ、録音の外で出た一言は、聞き手がその日のうちに角括弧で書き足さなければ残りません。短い答えもそのまま記録に残します。 ## 稟議を入れた失注理由リスト 開いた日本語の失注分析ページ(Salesforce Japan、Mazrica、Sansan、日立ソリューションズ、StartLink)のどれも、稟議を独立した失注理由として挙げていません。価格、競合、製品・機能、タイミング、営業活動の分類はありますが、「窓口担当者は推したが稟議で止まった」を置く場所がありません。次のリストはこの記事で提案するもので、どの会社でも試されていない案です。CRMの選択肢の隣に置き、インタビューの発言と対応させて使います。 - 稟議で比較材料が足りなかった(費用対効果や他社比較の資料を窓口担当者が作れなかった) - 決裁者に届かなかった(窓口担当者の先で検討が止まった) - 窓口担当者の推薦が弱かった(本人が別の候補を推していた) - 社内合意が取れず保留になった(否決ではなく、起案されなかった) - 既存の継続が選ばれた(切り替えの手間が理由になった) - 価格(何と比べて、誰がその数字を求めたかを添える) - 機能・要件(満たせなかった要件を具体的に) - 時期(予算年度や他案件との重なり) - 不明(買い手が知らない、または話さなかった) 1件のインタビューを1つのタグに押し込まないでください。「窓口担当者は推したが、稟議で他社と比較した費用対効果の資料が作れなかった」のように、引用と、これは一人の説明であるという注記を添えて記録します。CRMの「価格」と並べて見ることが、この調査の中心的な成果です。並べ方は[CRMの失注理由とインタビューの違い](/ja/blog/win-loss-vs-crm)で扱います。 ## 録音とメモの扱い:個人情報保護法 話した人の氏名、役職、声は、個人情報保護法上の個人情報に当たる場合があります。この記事は、法律が自社に何を求めるかを示しません。 **法的助言ではありません** 招待を送る前に、以下の点を自社の法務か弁護士に確認してください。結論ではなく、確認すべき問いです。 - 利用目的:録音とメモを何に使うと、いつ、どのように買い手に伝えますか。 - 調査であって売り込みではないこと:この通話が調査であり、参加が任意であることを、どう明確にしますか。日本マーケティング・リサーチ協会が会員向けに公開している綱領は、基準として読む価値があります。 - 提供:文字起こしを日本国外のベンダーやツールに渡す場合、法務はどのような同意や通知を求めますか。 - 第三者の情報:買い手が競合の非公開の見積もりを話し始めたら、聞き取りを止めて記録しない選択があります。扱いは法務に確認してください。 - 謝礼:参加への謝礼など価値のあるものを渡す予定なら、B2Bの失注インタビューに景品規制が及ぶかどうかを法務に確認してください。 ## Steveはどこまで この記事の方法に、ソフトウェアは要りません。回らなくなるのは、20件を超えるインタビューの日程調整、依頼のリマインド、当日中のメモです。自社で続けるなら、共有の記録用紙と一つのClaudeプロジェクト、機微な案件だけ母語の第三者に頼む形が現実的です。 Steveの受注・失注分析(Win/Loss)が担うのは、より狭い仕事です。サイトの説明では、HubSpotまたはSalesforceで商談が受注か失注でクローズすると、買い手へAIインタビューの招待を送ります。AIインタビューは回答を明確にするための追加質問をします。チームは買い手が実際に述べた内容を確認します。要約は「Generate Summary」を押したときに、その時点の回答から作られ、買い手のテーマはバトルカードの反論対応の欄に確認待ちとして届きます。 2026年10月7日のサイト確認の時点で、留意点が3つあります。招待は自社のSteveワークスペースから送られるので、中立の第三者ではありません。サイトはインタビューの言語を明記していません。データの取り扱いや個人情報保護法に関する点は、自社の法務と提供元に確認してください。この記事の聞き方の代わりにはなりません。誰もインタビューしないはずの案件を拾う道具です。それでも収集が止まるなら、[Steveの受注・失注分析](/ja/products/winloss)を確認してください。 ## よくある質問 ### 失注理由の「価格」は本当ですか? 仮説として扱います。2019年のビジネス+ITのインタビューでは「他社が安かったから」は多くの場合建前だとされ、創業手帳には価格と思われた失注が責任者の独自判断だった例があります。頻度を示す調査は見つかっていません。何と比べ、誰が数字を求めたかを聞いて確かめます。 ### 商談を担当した営業がインタビューしてはいけない理由は何ですか? 買い手は目の前の担当者を傷つけない答えを選びやすく、営業側にも評価を守る動機があるためです。Mazricaの解説は、正直に書くと評価が下がると恐れる営業が本当の理由を隠すバイアスを指摘しています。商談に関わっていない人か、第三者が聞きます。 ### 録音に同意は必要ですか? 録音の前に、自社の法務に確認してください。個人を識別できる音声録音は個人情報保護法上の個人情報に当たる場合があり、利用目的の通知、同意、海外ベンダーへの提供が論点になります。この記事は法的な結論を示しません。 ### 日本の買い手に謝礼のギフトカードを渡してよいですか? この記事では判断できません。謝礼を出すかどうか、景品規制が及ぶかどうかは、自社の法務に確認してください。 ### SteveのAIインタビューは日本語で使えますか? サイトには記載がありません。日本語の製品ページは、CRMで商談がクローズするとSteveが買い手にAIインタビューへの招待を送ると述べていますが、インタビューの言語は書かれていません。2026年10月7日の確認時点の情報です。